この記事では、労働者派遣法の内容や、派遣労働者を受け入れるときの注意点を解説します。罰則を受けないよう、しっかりと理解しておきましょう。
目次
労働者派遣法とは派遣労働者の雇用の安定を図るための法律
労働者派遣法は、弱い立場に置かれやすい派遣労働者を保護するための法律です。正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といい、派遣労働者の雇用の安定を図るため、社会の状況に合わせて何度も改正されています。[注1]
[注1]e-GOV法令検索:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
引用元:e-Gov法令検索
労働者派遣法が制定された背景
労働者派遣法は1985年に制定され、翌年7月から施行されました。ただし、制定当時の目的は、現在のような「派遣労働者の保護」とは少し異なります。制定当初は、「人材派遣を許可する」という意味合いが強い法律でした。
そもそも人材派遣は、1947年に公布された職業安定法によって原則禁止されていました。人材派遣においては、雇用関係や責任の所在が不明確であったり、派遣労働者が劣悪な環境で労働させられたりする問題が発生していたからです。
しかし、時代が進むとグローバル化や人手不足に対応するため、さまざまな雇用形態による人材活用が求められるようになります。一時的な人材不足を補いたいといった企業のニーズを満たすため、労働者派遣法が制定され、人材派遣ビジネスが許可されることになりました。
派遣労働者を受け入れるときは法律を遵守することが大切
派遣元企業はもちろん、派遣労働者を受け入れる企業も、労働者派遣法についてしっかりと理解しておかなければなりません。労働者派遣法には、派遣労働者を守るためのさまざまなルールが記載されています。
ルールを守らないと派遣労働者が安心して働けず、せっかく採用してもパフォーマンスが低下してしまう可能性もあります。複雑なルールも多く、知らないうちに違反しているケースも多いため注意が必要です。次の項目では、労働者派遣に関する主な注意点を紹介しますのでチェックしておきましょう。
労働者派遣における8つの注意点
派遣労働者を受け入れるときは、二重派遣を行わない、派遣労働者を選ぶことはできない、同一労働同一賃金を原則とする、といった点に注意しましょう。
以下、それぞれの注意点について詳しく解説します。
1. 二重派遣を行わないようにする
派遣労働者を受け入れるときは、二重派遣を行わないようにしましょう。二重派遣とは、人材派遣会社を利用して受け入れた労働者を、別の企業へ派遣することです。たとえば、派遣労働者を関連会社や子会社で働かせると、二重派遣に該当する可能性もあるため注意しましょう。
受け入れた派遣労働者と自社との間には、雇用関係はありません。別の企業へ再派遣すると職業安定法違反となるため注意しましょう。さらに、二重派遣は労働基準法で禁止されている中間搾取にも該当し、罰金や懲役といった刑罰が科せられる可能性もあるため注意が必要です。
2. 派遣労働者を特定する行為は禁止されている
紹介予定派遣の場合を除き、派遣労働者を事前に特定する行為は禁止されています。派遣元との間で結ぶ派遣契約は、労務の提供を目的とした契約であり、特定の労働者を選ぶための契約ではないからです。
どの労働者を派遣するかは、派遣元がスキルや経験を考慮して決定します。自社側で、派遣労働者を受け入れる前に面接を行ったり、履歴書の送付を求めたりすることはできません。年齢や性別などで労働者の属性を絞り込むことも禁止されているため注意しましょう。ただし、派遣労働者が希望する場合は、事前に会社訪問などを行うことは可能です。
3. 同一労働同一賃金を原則とする
派遣労働者を受け入れるときは、同一労働同一賃金に努めなければなりません。同一労働同一賃金とは、「同じ仕事をしているなら、同じ賃金を支払うべき」という考え方のことです。派遣労働者やパートタイマーといった非正規労働者であっても、正規労働者と同様の仕事をしている場合、待遇に不合理な差が生じないよう注意しなければなりません。
賃金はもちろん、待遇情報や教育訓練機会の提供についても差が出ないようにしましょう。派遣労働者に対しては、業務の遂行に必要な訓練や、雇用に関する情報を提供する必要があります。福利厚生施設の利用についても注意しましょう。派遣労働者を受け入れる場合は、食堂・売店・休憩室・更衣室・保養施設などを利用できるよう配慮しなければなりません。
4. 3年を超えて就業させることはできない
派遣期間についても注意しなければなりません。事業所単位と個人単位での制限があり、基本的には3年を超えて就業させることは違法であるため注意しましょう。この制限は、「派遣労働者はあくまでも一時的な労働力の確保である」という考え方に基づいて設定されています。
たとえば事業所単位で考えると、最初に派遣労働者を受け入れた日を起算日として、3年までしか就業させることはできません。仮に、3年以内に別の派遣労働者と入れ替わった場合でも、起算日は変わらないため覚えておきましょう。ただし、過半数労働組合などに対し意見聴取の手続きを得れば、3年間の延長が可能です。
派遣期間が延長されたとしても、同一の派遣労働者である場合は、3年を超えて同一の部署で就業させることはできません。たとえば、事務課で3年働き、派遣期間の延長後も事務課で働くことは違法です。庶務課など、別の部署やグループで就業することは問題ありません。
5. 無許可の派遣会社からの受け入れは禁止されている
派遣労働者を受け入れるときは、無許可の派遣会社を利用しないように注意しましょう。労働者派遣をビジネスとして行う場合は、必ず国の許可を受けなければなりません。無許可の企業から派遣労働者を受け入れると、違法派遣と扱われるため注意が必要です。許可のある派遣会社かどうかは、厚生労働省の人材サービス総合サイトで確認できます。[注2]
また、無許可の派遣会社であることを知りながら人材を受け入れた場合は、「労働契約申込みみなし制度」が適用されます。この制度は、派遣労働者に対して直接的に労働契約を申し込んだとみなされる仕組みです。労働契約の内容は、派遣労働者と派遣元企業の間で締結されているものと同じになります。たとえば、有期雇用契約であった場合は、自社と派遣労働者との間の労働契約も有形雇用契約となるため注意しましょう。
[注2]厚生労働省職業安定局:人材サービス総合サイト
引用元:厚生労働省
6. 派遣労働者にさせてはいけない業務に注意する
派遣労働者にさせてはいけない業務もあるため注意しましょう。労働者派遣法によると、警備業務・建設業務・港湾運送業務・士業・医療関連業務を派遣労働者にさせることはできません。
建設業務や港湾運送業務については閑散期と繁忙期の差が大きいため、別の派遣制度が設けられており、一般の派遣労働者を従事させることは禁止されています。
医療関連業務については、直接雇用でなければチーム内での意思疎通が難しいことから、一般の派遣労働者を従事させることはできません。それぞれの業務を適切に遂行できるように決められているルールであるため、違反しないようにしましょう。
7. 契約書に記載のない業務をさせることはできない
労働者派遣法により禁止されている業務以外であっても、契約書に記載のない業務をさせることはできません。派遣労働者が担当する業務は、派遣契約書に記載しておく必要があります。
派遣労働者には、基本的に契約書に記載されている業務のみを担当させることが重要です。気づかないうちに業務範囲が広がってしまうケースも多いため、関係のない仕事を担当させていないか、適宜チェックするようにしましょう。
業務内容と同様、出張や残業なども契約書に基づいて指示しなければなりません。契約書に記載のない出張や残業、接待をさせることは違法であるため注意しましょう。関係のない部署で働かせることも認められません。どうしても派遣労働者の業務内容や所属部署を変更する必要があるときは、派遣元や派遣労働者と一緒に契約書の内容を見直して変更しましょう。
8. 派遣労働者からの苦情に対応する必要がある
派遣労働者を受け入れるときは、苦情に対応するための体制を整えておかなければなりません。職場での働き方についての意見はもちろん、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどに関する苦情にも丁寧に対応するようにしましょう。
派遣労働者が働きやすい環境を構築することで、より能力が発揮され、生産性が向上します。派遣労働者や派遣元との良好な関係構築にもつながるため、誠実に対応することが大切です。
労働者派遣法に違反したときの罰則
労働者派遣法に違反した場合、まずは助言や指導を受けることになります。指示に従わなかったり、適切な改善処置を講じなかったりしたときは、次のような罰則が科せられる可能性もあるため注意しましょう。改善命令
とくに重大な違反であり、口頭や文章による指導で是正されないときは、改善命令が出されます。改善命令を受けた場合は、改善計画を作成したうえで、計画に従って是正処置を行わなければなりません。労働局の指導や監視を受けることにもなり、是正が完了するまで追跡調査されます。
事業停止命令
改善命令を受けても是正されないときは、事業停止命令が出されます。重大な違反を繰り返した場合にも、期間を区切って事業停止命令が出されるため注意が必要です。
事業停止命令を受けたときは、新たに派遣契約を結んだり、契約を更新したりすることはできません。ただし、すでに受け入れている派遣労働者については、引き続き働いてもらうことが可能です。
企業名の公表
改善命令や事業停止命令に従わず、違反の内容が悪質である場合は、企業名が公表されるケースもあります。とくに悪質なときは、刑事告発に至る可能性もあるため注意が必要です。労働者派遣法で定められたルールをしっかりと理解しておくのはもちろん、助言や指導を受けたときはすぐに是正するようにしましょう。
労働者派遣法に関する違反事例
最後に、労働者派遣法に関する違反事例を紹介します。うっかり違反しないよう確認しておきましょう。二重派遣に関する違反事例
二重派遣は、よくある違反事例のひとつです。前述のとおり、受け入れた労働者を、別の企業へ再派遣することはできません。システム開発を請け負う企業において、派遣労働者を関連する企業へ出向させてしまい、改善命令を出された事例などがあります。
派遣労働者を不当に働かせることや、中間搾取による賃金の低下につながるため、二重派遣を行わないように注意しましょう。
受け入れ期間の上限に関する違反事例
派遣労働者の受け入れ期間に関する違反事例も多くあります。派遣労働者を受け入れるときは、3年という上限に注意しなければなりません。部署を変えれば3年を超えて受け入れることも可能など、ルールが複雑なため、しっかりと理解しておきましょう。
受け入れ期間についての違反の場合、改善命令を出されるのが一般的です。事業停止命令などの重い罰則を受けないよう、すぐに是正する必要があります。
まとめ:労働者派遣法を遵守しながら人材を確保しよう!
今回は、労働者派遣法の概要や、派遣労働者を受け入れるときの注意点について解説しました。派遣労働者を採用するときは、二重派遣を行わない、同一労働同一賃金に努める、事前に面接や書類選考を実施しない、といった点に注意しなければなりません。改善命令などを受けないよう、法律を遵守しながら人材を確保しましょう。
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